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学校事故 災害共済給付

(はじめに)
 学校や保育園内での事故や通学・通園中の事故について、災害共済給付を受けることができる場合あります。
 この災害共済給付契約は強制加入ではありませんが、小学校や中学校の児童生徒等の加入状況は99.9%以上で、高等学校でも97.8%となっています(令和元年度の状況)。
 事故内容や生じた損害などについて学校側と争いがなく、学校側が協力的な場合は、基本的に学校側が申請に必要な書類等を準備してくれます。
 保護者が請求をすることも可能です。
 この災害共済給付制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター(独立行政法人通則法及び独立行政法人日本スポーツ振興センター法に基づき設立された法人)によって運営されています。
 一般的な制度概要は、日本スポーツ振興センターのホームページ等に詳しく記載されています。
 支給される主な給付は、以下の通りです。
  負傷、疾病の場合の医療費(支給開始後10年間まで)、
  後遺障害が残った場合の障害見舞金(上限4000万円)、
  死亡の場合の死亡見舞金(上限3000万円)。
 
 支給される医療費は、その医療費の総額(自己負担分ではなく、病院に支払われる医療費の総額)の10分の4が原則です。健康保険等を利用せずに、自由診療でかかった場合、その医療費の全額が支給されるわけではありません。

 給付の請求があった場合の審査は、日本スポーツ振興センターがおこないます。審査結果に不服がある場合は、不服の申立てができますが、その不服に対する審査も同センターが行うことになります。
 なお、大学はこの給付制度の対象になっておりません。しかし、大学生の場合でも、災害共済給付契約と同等の保険等に加入している可能性がありますので、不明な場合は大学等に確認すべきです(補償範囲が狭い場合や給付額などが低額な場合もあります)。
 

(災害共済給付制度と損害賠償請求訴訟)

1 訴訟では過失の立証が必要
 災害共済給付と加害者側に対する損害賠償請求訴訟の大きな違いは、訴訟の場合、被害者側が裁判において、学校側に過失があることを立証しなければいけないという点です。
 一方で、災害共済給付制度は、学校管理下の事故であれば、過失の有無にかかわらず、給付が行われる可能性があります。
 
2 災害共済給付が行われた後の加害者側への求償について
 災害共済給付を日本スポーツ振興センターが行った場合、同センターは加害者側に対して、給付相当額を請求(求償)することができます。しかし、加害者が個人の場合にどの程度の割合で求償が行われ、実際に回収が出来ているのか公表されている統計からは不明です。
 求償が行われない場合、あるいは求償を行っても加害者側が支払いに応じずに、その後求償が行われなった場合、加害者側が何らの金銭的負担もしないままの状態になることもあります。

3 災害共済給付受け取り後の裁判も可能
 災害共済給付を申請し給付金を受け取った上で、加害者側に損害賠償請求をすることも可能です。
 この場合、既に給付を受けた分については、損害額から差し引かれる場合があります。

4 時効
 災害共済給付の申請期限は、給付事由が発生した日から原則2年です。
 給付事由が発生した日とは、負傷・疾病の場合は病院を受診した日、障害の場合は症状固定の日、死亡した日などです。この給付事由が発生した日から一定期間が経過した日が時効の起算日となり、この起算日から2年を経過すると給付を受ける権利が時効によって消滅してしまいます(時効制度は思った以上に複雑な制度ですので、疑問があればセンターに照会するか専門家に相談すべきです)。
 災害共済給付の時効は、裁判で損害賠償請求を行う場合の請求権の時効よりも短くなっていますので、まずは、この給付を申請すべきかどうか検討する必要があります。

5 後遺障害の等級認定
 災害共済給付における障害(後遺障害)の等級認定は、労災補償における障害等級認定とほぼ同じ基準が用いられていますが、災害共済給付の場合、学校生活や学習にどのような影響をどの程度与えるかによって、等級が判断されます(労災補償の場合は、就労能力等にどのような影響を与えるかによって判断される)。
 第1級から第14級までのどの等級と認定されるかによって、給付額が大きくことなってきます。たとえば、9級の場合の給付額は590万円となりますが、13級の場合150万円(令和元年時の金額)となり、実際に生じた後遺障害に見合わない低額な給付額となってしまう場合があります。
 障害を受けた部位などによって、認定の方法が細かく定められており、その部位によっては、9級の次の等級が13級となっている場合もあります。
 つまり、9級と認定されない場合に、10〜12級となるのではなく、13級になってしまう場合もありえます。
 また、後遺障害に関する診断書の内容などによっては、実際には後遺障害があっても、いずれの等級にも認定されない場合もあります。
 認定された等級などに不服がある場合は、不服申立等を行うことが可能です。

6 給付金額と裁判での賠償金額は大きく異なる場合がある
 災害共済給付における賠償額は、裁判における賠償金額よりも極めて低額になる場合があります。特に、重度の後遺障害が残った場合などは、将来的に介護費用などが非常に高額になる場合があるにもかかわらず、給付額の上限は4000万円となっています。

7 賠償金の回収について
 災害共済給付は、審査の結果、支給が決定されれば、ほぼ確実に給付金等の受け取りが可能です。
 一方で、裁判では、責任の有無が判断されるだけで、賠償金の回収は被害者側で行わなければいけません。また、加害者などに資力がなければ、何らの賠償金も回収できない可能性もあります。
 
(おわりに)
 災害共済給付契約は保育園や学校等に通う多くの児童・生徒が締結しているため、その加入状況を確認し、申請が可能な場合は申請を検討すべきです。
 学校側に過失が認められない場合や被害者側の過失が大きく裁判での賠償額が大きく減らされてしまう場合でも、この災害共済給付を受けることが可能な場合があります。
 
 業務上過失致死傷罪や傷害罪に該当する可能性があるような学校事故の場合は、犯罪被害者支援制度などを利用して、被害者側の費用負担なく弁護士の支援が受けられる場合もあります。
 まずはお気軽にご相談下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

被害者支援・法律相談

弁護士馬場伸城
弁護士 馬場伸城
第一東京弁護士会所属
犯罪被害者委員会委員

日本障害法学会正会員
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