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PTSDに関する裁判例

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、交通事故や殺人、性的被害などの大きなストレスを受ける出来事や状況に出会った結果、発生する精神障害です。
 

 裁判例では、交通事故や性的被害、労働災害などの客観的にも重大な被害が発生している出来事の結果、PTSDが発症している例が多いといえますが、中には、客観的には死亡や重症となる可能性がない事故であっても、被害を受けた本人が、死の恐怖等を感じたため発症した例などもあります。
 また、もともとPTSDや他の精神障害などの症状があり、他の人よりも恐怖などを感じやすいためにPTSDを発症した例などもあります。

 裁判では、PTSDと診断されたからといって、直ちに多額の賠償金が認められるという傾向にはありません。むしろ、被害者の立場からは極めて低額の賠償金しか認められないケースも多々あります。

 裁判例のざっくりとした傾向としては、
PTSD発症の原因となった出来事が客観的にも極めて危険かつ重大、
PTSD発症の結果、日常生活等に支障が生じている、
もともと他の精神障害などがない(あっても影響が小さい)、
 などの点が証明できた場合には賠償額が高額となる可能性があります。

 一方で、上記のうちいずれかを欠く場合は、実際の被害に比べて、低額な賠償額が認定されてしまう可能性があります。

 また、医学書などには、「事故などから数週間から数か月の潜伏期間を経た後にPTSDの症状が発現するが、潜伏期間が6か月を超えることはまれであり、原則として事故などから6か月以内に発現していることが必要」(標準精神医学第4版(医学書院))などと記載されていたこともあり、これを判断の基準にする裁判例もあります。
 たとえば、性的被害を受けてから10年以上何らの症状もなかったが、10年後に症状が出た場合に、その症状は、性的被害によるものとはいえないと否定されてしまうことがあります。
 裁判では、実際に何らの症状もなかった場合だけでなく、実際にはPTSDの症状といえるものがあったものの、当時は医療機関に行くことができなかったため、事件などから6か月以内に発症していたことを証明することができず、事件と関係があるPTSDと認定されないこともあります。



 ※以下は、犯罪被害者の支援等に取り組む専門家向けの内容です。

<PTSDの事例について参考となる裁判例>

@平成26年9月25日札幌高等裁判所判決

 (原審:平成25年4月16日釧路地方裁判所判決)
 幼少期に5年間、性的虐待を受けPTSDや離人症性障害、うつ病などを発症。
 性的虐待行為の終期は昭和58年頃のため、同年頃、発症したPTSDに関する損害については除斥期間の経過が問題となり、PTSDよりも20年近く遅れて発症したうつ病について、将来治療費などの損害賠償が認められた。
 精神的苦痛に対する慰謝料は2000万円が認定されている。



A平成17年10月14日東京地方裁判所(判タ1230号251頁)

 11歳から19歳までの間、性的虐待を受け、重度のPTSDを発症し、労災保険法基準での後遺障害等級5級2号と認定。症状固定から20年間、労働能力喪失率79%の後遺障害逸失利益約3463万円を認定。
 後遺障害に基づく慰謝料は1000万円が認定されている。



B平成27年12月9日名古屋高等裁判所金沢支部判決

 子ども用の傘で腰を突かれ傷害を受け、PTSDを発症。PTSDについて9級7号の2と認定。素因減額5割。



C令和元年6月28日京都地方裁判所判決
 上司から強制わいせつ及び姦淫の被害を受けPTSDを発症。9級相当と認定。素因減額4割。



D平成20年10月7日東京地方裁判所判決

 インターネットで知り合った相手から強制わいせつ及び強姦の被害を受けPTSDを発症。後遺障害逸失利益として、労働能力喪失期間10年、喪失率は症状固定から最初の3年間100%、その後2年間70%、5年間30%を認定。素因減額5割。

 ※PTSDの場合、心的外傷を生じさせた出来事とPTSD発症の結果が結びつく以上、精神的な脆弱性が発生に寄与していたとしても、素因減額はなされないことが多いといえます。しかし、もともとPTSDや関連する精神疾患等が存在していた場合は例外的に素因減額がなされています。
 
<その他の裁判例>
 PTSDに関して7級の後遺障害認めるもの(現時点でも参考になるかどうかは検討が必要。)
 ・平成10年6月8日  横浜地方裁判所判決
 ・平成11年2月25日 大阪地方裁判所判決
 ・平成13年7月12日 松山地方裁判所判決
 ・平成14年3月27日 福岡地方裁判所飯塚支部判決


<後遺障害に関する診断書>
 PTSDは、労災保険法上の労災補償に関する障害認定基準では、非器質性精神障害に該当するため、これに関する意見書等が必要になります。この意見書は、定型のものが存在しています。
 学校事故などの場合は、日本スポーツ振興センターの書式があります。

 厚生労働省ホームページ 
 神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準について


<PTSD診断の際の診断書>
 PTSDの診断については、WHO(世界保健機構)による基準ICD−10やICD−11、米国精神医学会による基準DSM−4やDSM−5などがあります。
 これらは数年おきに改訂され、疾患の分類や診断基準などが変更になっています。
 これらの基準に基づく診断を受けていることを証明するためには、診断書のひな型を作成して、医師に記入を求めるという方法も考えられます。

 (以下は各基準の原文などもご確認の上、参考程度にご利用下さい。)


※該当する項目に〇(丸印)、それ以外の項目に\(斜線)を記入して下さい。
※例
初 診 時:   年   月   日
今回診断時:    年   月   日
PTSD 診断の基準 DSM-X 初診時 今回診断時
A. 実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:
心的外傷的出来事を直接体験する。
他人に起こった出来事を直に目撃する。
近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。(例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在:
心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶。
注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢。
注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。
C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される:
心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。
D. 心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される:
心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)。
自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
重要な活動への関心または参加の著しい減退。
他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。
E. 診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される:
人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り。
無謀なまたは自己破壊的な行動
過度の警戒心
過剰な驚愕反応
集中困難
睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)
F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上
G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。
H. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
令和  年   月    日
所在地
医療機関
診療科
医師名           印

被害者支援・法律相談

弁護士馬場伸城
弁護士 馬場伸城
第一東京弁護士会所属
犯罪被害者委員会委員

日本障害法学会正会員
日本建築学会正会員

〒103-0027
東京都中央区日本橋
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