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ともに立ち向かい支える

 

犯罪被害者への支援活動の概要

 刑事裁判や民事裁判を通りして被害に立ち向かうためには、あなたの権利やこれから進められていく手続きについて理解をしておく必要があります。
 かつて、犯罪の被害者は、刑事裁判などにおいて「忘れられた存在」とまで言われていましたが、現在では、刑事裁判に参加し、意見を述べる権利などを有しています。
 まだまだ不十分ではありますが、支援制度も整えられ、支援団体や弁護士による支援も受けやすくなりました。
 




(手続きの流れ)

被害発生から刑の執行等までの流れ

 被害の発生から民事裁判の終了までの流れは、以下の通りです。

<刑事事件>
   被害の発生
    ↓
   捜査(犯人の逮捕、起訴・不起訴の判断)
      
   刑事裁判(第一審、控訴審、上告審)
    ↓
   判決の確定・刑の執行



<民事事件>
  証拠の収集
   ↓
  訴訟の提起
   ↓
  民事裁判(第一審、控訴審、上告審)
   ↓
  判決の確定・賠償金の回収・強制執行など


※刑事事件が先行している場合、民事事件においては、刑事事件における捜査記録等を証拠として利用します。しかし、捜査記録には、刑事事件終了後、民事訴訟を提起するまでに発生した治療費や後遺障害についての診断書などが含まれていないため、独自に入手する必要があります。
 また、刑事事件における事実の認定と民事事件における事実の認定は、異なるため、刑事事件で認めれていたことも、民事事件では認められないこともあります。
 一方で、刑事事件において無罪となった場合でも、民事事件では、違法行為が認められ、損害賠償請求が認められることもあります。


(捜査段階での支援)

手続きの説明

 ほとんどの方が初めて被害を受け、初めて警察や弁護士に接することになります。今後、どのようなことが起きていくのか、どのような手続きを選択できるのか丁寧に説明致します。また、精神的な面での支援が必要な場合、適切な機関等を紹介致します。
 被害者遺族の方からの感想として、刑事裁判、民事裁判等に関する制度の説明を受けて理解が出来ても、納得ができないことが多くあるということをよく聞きます。
 たとえば、刑事裁判でも民事裁判でも、必ずしも真相が明らかになるわけではないという点は、多くの被害者遺族の方が納得できない点といえます。被害者遺族は、多くの場合、なぜこのような事件が起きたのかということを知りたいと考えていますが、犯行の動機や事故の発生原因などは裁判に必要な範囲でしか明らかにならず、被害者遺族が求めるレベルの事実などが明らかにならないことは多々あります。
 特に、犯行の動機などは、客観的な証拠がない場合が多く、被告人本人が何も明らかにしなければ、裁判官にもその事実が分からないまま、裁判は終了します。
 被害者が死亡してしまった重大な交通事故であっても、加害者が携帯電話を見ていたり、居眠りをしていたり、カーナビの画面を操作していたりしていたのではないかと被害者遺族が疑問に思っていても、単に前方をよく見ていなかっただけとして事件が処理されることもあります。
 被害者にとって重要と思える事実も、法律の世界では軽視されることもあります。また、犯罪被害者やその遺族が、加害者に直接質問をしても、加害者が誠実に回答しなければ、それ以上の追及が何もできないことも珍しくありません。
 犯罪による被害を受けたことで無力感が生じ、その後、被害の回復のために努力をしようと立ち上がった段階でも制度の不十分さからくる無力感を再び味わうことも少なくありません。
 手続きの説明においては、被害者の立場に立ち、その無力感を少しでも減らしていくことが重要と考えています。そのためには、不十分な制度の中でも、被害者側からどのようなことができるのか、丁寧な説明を行うよう心がけております。


捜査機関に対する要望

警察の設置目的は、個人の権利と自由の保護にあり、被害者やその遺族の心情や人格を尊重することが求められます。また、警察の内部規定(犯罪捜査規範)には、被害者やその遺族に、捜査の過程などを通知すべきであると定められています。
 もっとも、捜査に支障が生じるなどの理由から、十分な説明がない場合もあります。また、捜査が開始されても、検察官の判断で、不起訴になってしまい、何らの処罰がなされない結果もありえます。
 犯罪の捜査は、必ずしも被害者や遺族のために行われるわけではないのです。
 そのため、刑事事件の手続きの流れを把握した上で、警察や検察官、その他の関係者等に対して、適切な捜査がなされるように、被害者やその遺族の意見や要望を伝えることが重要といえます。
 不起訴がありえる事案の場合は、事前に検察官に連絡し、処分の決定前に再度、被害者や遺族の方の意見を聴いてもらうよう要望を出します。また、不起訴になってしまった場合は、その理由の説明を求め、検察審査会への審査請求も検討します。


 

刑事裁判の準備

加害者が刑事裁判にかけられる見込みが高い場合、刑事裁判に向けた準備を開始をします。具体的には、刑事裁判において被害者の方々ができること(例えば、捜査記録などの閲覧、公判の傍聴、心情の陳述、被害者による被告人への質問)などを説明した上で、被害者の方々の意向に沿った準備を行います。遺族の方が多数いらっしゃる場合は、意見の調整等を行うこともあります。


示談交渉への対応

加害者に弁護人が付き、被害者や遺族の方に対して示談の申し入れをしてくる場合があります。
 突然の被害にあい、混乱している状況の中で、手続きへの参加を積極的に望んでいないにも関わらず、告訴の取下げや、謝罪の受け入れ、示談金の受け取りなどを求めるられることで、無理やり手続きに巻き込まれしまっていると感じる被害者の方もおります。
 また、加害者側から提示される示談金額が適切なのかどうか、分からない場合も多くあります。
 事件内容に応じて、示談金の「相場」というものが存在していると考える方もいるようですが、事件内容だけでなく、加害者側の資力や被害者との関係性などによって、実際の示談金は大きくことなります。
 刑事裁判を回避するために、加害者側が高額の示談金を提示することもあれば、加害者の資力が乏しいため、被害結果に比べて少額の示談金しか提示されない場合もあります。

 支援弁護士は被害者の方々の意向をもとに対応の方針を決め、示談交渉を拒否し、あるいは進めていきます。


犯罪被害者給付金等の申請

被害者やその遺族は、犯罪被害者給付金の申請ができる場合があります。お住いの地域のよっては、条例により、自治体から給付金等を受けることができる場合もあります。
 家族の生活を支えていた方が被害にあい、少しでも早く資金が必要な場合は仮給付金などの制度もありますが、実際に生じた損害と給付金の金額には大きな開きがあると感じる被害者の方は少なくありません。
 また、重大な交通事故事件では、自賠責保険や任意保険等に仮渡金等が請求できる場合もあります。
 もっとも、被害者や遺族の方の第一の目的が、より厳重な処罰にある場合は、刑事裁判が完全に終了するまでに、金銭による賠償を受けることには、被害者側にとって不利益になる場合があります。
 犯罪の被害によって生じた損害を、加害者が賠償することは当然のことであり、そのことで刑罰が軽くなることは間違っているのではないかという考え方もありますが、刑事裁判においては、被害者側に損害の賠償が行われたことは、加害者に有利な事情として考慮される可能性があります。
 たとえば、交通事故などにおいて、任意の自動車保険に加入しており、そこから賠償が確実である場合、たとえ、被害者が刑事裁判終了までその受け取りを拒否していたとしても、保険に加入していること自体が被告人にとって有利な事情として考慮されることがあります。
 

損害賠償請求(民事訴訟等)の準備

示談を拒否した上で、刑事裁判の終了後に、損害賠償請求をする場合は、民事訴訟等の準備を行います。加害者に支払いの能力がなく、示談の申し入れすらない場合、たとえ、民事訴訟等を提起して判決が出ても、一切の賠償金を回収できない場合もあります。
 しかし、被害者の方々の中には、民事訴訟等においても加害者側の責任を明らかにしておきたいとお考えになる方もおられます。その場合、できるだけ費用をかけずに目的を達成する方法を検討します。具体的には、損害賠償命令制度、本人訴訟、その他支援制度の利用などを検討します。


(起訴後の支援)

起訴後の対応

 起訴がされると、加害者は保釈の請求等ができるようになります。保釈が許可されると、逮捕されていた加害者は、自宅等に戻ることが可能になります。
 また、捜査の段階では、たとえば殺人などの罪名で捜査されていたにもかかわらず、起訴された際には、傷害致死や過失致死などの罪名に変わっている場合もあります。
 このような場合、検察官に対して、なぜそのようなことになったのか説明を求めるとともに、その変更を求めていきます。検察官がすでに決定した起訴の罪名を変更することはまれではありますが、被害者の立場からできることを最大限行っていくことが重要といえます。


刑事裁判への参加

 殺人、傷害致死、過失運転致死などの被害者遺族や傷害、過失運転致傷、強制性交などの被害者は、刑事裁判に参加できる場合があります。
 被害者の方が刑事裁判に参加する目的は、なぜ事件が起きたのか知りたい、加害者が反省しているのか確認したい、加害者が本当のことを言っていないので、嘘を付いていることを明らかにしたい、出来るだけ思い罰をあたえて欲しいなどが多いように感じます。
 真実を追求したいという被害者の方の思いは当然のものであり、また、裁判は真実を明らかにする場だと考えている方が多いのも事実です。しかし実際には、被害者が知りたいと思うことを知ることは難しく、そのための手段もほとんど用意されていないのが現実です。
 たとえば、被害者遺族は、加害者ははじめから被害者を殺そうと考えていたと思っていても、刑事裁判では加害者に傷害致死の罪が成立するかどうかだけが争われることもあります。つまり、この場合、刑事裁判は、そもそも加害者が被害者を殺そうと考えていたかどうかを全く問題にしていないのです。
 このような裁判に参加をしても、多くの場合は無力感を味わうことになります。
 それでも、せめて、なぜそういう結果になるのか納得はできないが、理解をしたいと考える被害者の方もいます。
 被害者の立場からは非常に不十分な制度であることを理解した上で、何ができるのか、何をすべきかを考えていくことが重要です。
 被害者を支援する弁護士は、大きな制約のもとで、被害者の方が望むことをどのように実現していくのかを考え、選択肢を示します。


事件記録の閲覧・コピー

 犯罪が発生し捜査が開始されると、捜査機関によって、様々な証拠に関する報告書や、目撃者や加害者の話した内容などが記載された書類(供述調書)などが作成されます。
 これら事件に関する記録の一部は、被害者やご遺族が、閲覧しコピーを受け取ることが可能です。
 捜査中は、基本的に、記録の閲覧等はできません。
 裁判中は、記録の閲覧等が可能です。
 また、裁判終了後でも閲覧・コピーが可能な場合がありますが、閲覧可能な期間は原則、裁判終結後3年間となっています(刑事確定訴訟記録法第4条)。


損害賠償請求

 犯罪の被害によって生じた損害は、加害者に請求ができます。
 もっとも、どこまでの損害が請求できるか、また、実際に支払いを受けることができるかどうかは、個々の事件によって異なります。
 実際の事件で、慰謝料の相場がどれくらいなのかと聞かれることがよくありますが、事件の内容やどの段階で損害賠償金を受け取るかによって金額は大きく異なります。
 過去にどのような事件で、どの程度の金額が認められているかを調べることはできますが、実際に、そのあなたの事件においても同様の金額となるかどうかは、事件の内容を詳細に検討にしなければ分かりません。
 加害者が加害行為については認めていても、被害の内容やその損害額について争うことはよくあります。時には、刑事裁判においては、認めていた事実を民事裁判において否定することもあります。
 ようやく刑事裁判を乗り切った被害者が、民事裁判においても、理不尽な対応に苦しむことは珍しいことではありません。支援にあたる弁護士は、被害者の方の精神状態等にも配慮し、必要に応じて他の支援機関と連携を行います。
 さらには、多くの事件で、加害者に資力がないため、被害者が実際の支払いを受けることができないという問題に直面します。
 こういった事前に予期しえる問題については十分に検討を加えた上で、手続きを進めていきます。
 民事訴訟を行わないということも
選択肢のひとつとなりえます。


時効

 生命を奪われまたは身体を傷付けられた被害者が加害者に対して、損害賠償請求ができる期間は、原則として、損害と加害者の両方を知った時から5年間、権利行使が可能になってから20年で時効により消滅します。
 2020年4月1日に改正民法が施行されているため、制度が複雑になっています。なお、人の生命・身体の侵害以外の場合は、損害及び加害者を知った時から3年で時効となります。
 また、時効制度は、客観的な日付で簡単に決まってしまうように思われがちですが、実際には、いつ損害や加害者を知ったのか、あるいは、いつ権利行使が可能になったといえるのをどのように主張し、どのように証明にするかという問題でもあり、とても複雑です。
 たとえば、PTSDのように症状自体が複雑で、その症状がいつ固定したのかを医学的に判断することが難しい後遺障害などの場合、時効がいつから進んでいくのか争いになることもあります。
 刑事事件との関係では、公訴時効にも気を付ける必要があります。
 

  


被害者支援・法律相談

弁護士馬場伸城
弁護士 馬場伸城
第一東京弁護士会所属
犯罪被害者委員会委員

日本障害法学会正会員
日本建築学会正会員

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